【周囲の人にできること】

1. 友人・家族・隣人などの立場からできること
2. 周囲の方々へのメッセージ
   当事者のご両親へ/加害者のご両親へ/過去にDV被害を受けた女性と交際している方へ



【友人・家族・隣人などの立場からできること】
(1)当事者が抱いている恐怖や無力感、罪悪感や自責感をわずかでも軽減させる
(2)当事者が継続的な援助を受けようと思い、その行動の1歩を踏み出せるように
  支援する


・まずは「聴く」こと

 「聞く」「訊く(尋ねる)」ではありません。耳と心を傾けて聴いてあげてください。
 当事者に対し、あなたの価値観や判断、解釈や分析を押し付けないでください。
 それらは「聴く」という作業自体を邪魔します。
 DVとは?の項で書いたように、当事者はさまざまな想いを抱いています。
 当事者にとって、「誰かに話すこと」自体、とても勇気のいる第一歩です。
 その第一歩を、そして当事者の心を踏み潰すことのないよう気をつけてください。
 「あなたにも悪いところがあるのでは?」「それくらいよくある話」「子どものためには父親が
 必要よ」「あなたが相手を怒らせないように気を配ってみたら?」
 そんな言葉は、当事者をさらに傷つける二次被害になってしまいます。

・当事者を責めない
  「なぜ、逃げなかったの?」「私なら立ち向かうわ」「なぜ、そんな人と結婚したの?」
 ・・・それは傍観者だから言えるセリフではないでしょうか?裏を返せば「当事者が悪い」と
 言っているのと同じです。「なぜ〜」という言葉は、当事者を責めるのと同じです。
 「逃げない?逃げられない?」の項で書いたように、「逃げられないのは当然」なのです。
 また、通常の夫婦喧嘩のように対等に立ち向かえる状況でもありません。

・「あなたは悪くない」と伝えること
 当事者は多くの場合、「自分が悪いから」「自分にも原因がある」と思い込まされています。
 思い込まされているのに、またさらに周りの人から同じように言われれば、ますます自分を
 責めます。
 100歩譲ってどんな理由があったとしても、「暴力は犯罪」です。他人を殴れば「傷害罪」に
 なります。「暴力をふるわれて当然」なんてありえません。多くの選択肢の中から「暴力」を
 選んだのは加害者自身です。「(当事者が)○○したから〜」ではありません。
 「暴力をふるうこと」自体が悪いのです。当事者が「自分は悪くない、自分のせいではない」
 と思えるようになるには時間がかかるかもしれません。どうか「あなたは悪くない」と伝え
 続けてあげてください。

・「あなたは一人ではない」と伝えること
 当事者は多くの場合、孤立させられています。友人などとの付き合いを制限され、「家庭」
 という牢獄の中で見えない鎖に縛られて閉じ込められています。孤独は人の力を奪うもの
 です。「あなたは一人ではない」と伝えてあげてください。「聴くことくらいしかできないかもしれない
 けど、私がいるよ」と。 誰か一人でも、自分の気持ちをわかってくれる人がいる、在りのままの
 自分を認めてくれる人がいる。それだけで、どんなにか心強いと思います。
 また、それぞれの立場は違っても同じようにDVで辛い想いをしている人が日本中世界中にいます。
 みんな対等な仲間です。(安全にインターネットができる環境があれば、DV関連のHPや掲示板
 があることを伝えるのも一方法です)

・「人に助けを求めることの大切さ」を伝える
 彼女の話を聴いたあなた自身、問題の大きさに戸惑い、あるいは彼女の苦しみに押しつぶされそう
 になるかもしれません。 
 「よく話してくれたね」「話してくれてありがとう」と伝えてあげてください。 当事者は今まで誰にも
 言えずに我慢してきました。「一人で我慢すること」を強いられ、誰かに話しても逆に「あなたも悪い」
 と言われ続けてきた当事者は、「助けて」と言うこと自体が苦手になっています。
 「誰かに助けを求めることの大切さ」を伝えてあげてください。人として持つ当然の権利を教えて
 あげてください。 婦人相談所やDVについてなど、当事者に役立つ情報を伝えることも必要です。

・「加害者の人格批判」はしない
 状況によっても異なりますが、当事者は相反する感情を持っています。加害者に対する愛情や
 「直ってくれるのでは?」という希望を抱いている場合、「自分が悪いから」と思い込んでいる
 場合もあります。当事者が相反する感情を持つのも、気持ちが揺れるのも当然のことなのです。
 加害者の「人格全て」を否定する言い方をすると、当事者はその相反する感情から加害者を
 かばうこともあり、それはあなたの苛立ちや無力感を生み出すかもしれません。また、当事者自身
 その相反する感情に心が引き裂かれてしまいます。

・「中立」ではなく「当事者寄り」の立場で
 「中立」は公平なことだと一般的には思われています。
 でも、「被害者」と「加害者」のように、力が対等でない場合においては、「中立=加害者寄り」
 になってしまいます。
  上手に説明はできないのですが、例えば、グラフ上で、「加害者」=10の地点、「当事者」=0
 の地点だとします。客観的には「中立」=5の地点です。
 でも、実際には、力が対等ではない立場の当事者が立っているのは「マイナス」の地点なのです。
 中間に見える5の地点自体が、本当の意味では中間ではありません。また、当事者が立つ
 マイナスの位置から眺めた場合、それは「自分の傍」でも「中立」でもなく、「加害者寄り」に
 見えるでしょう。
 
 もう1つ別の例えとして。公園にあるシーソーを思い浮かべてみてください。
 「被害者」と「加害者」のように、力が対等でない状態を重さの差とします。仮に水平に保つにしても
 軽い方(=被害者側)に加勢しなければなりませんよね。
 
 当事者のサポートをしようと思うのであれば、「当事者寄り」の立場でいてください。
 両者の話を聞くケースもあるかもしれません。その場合、「暴力の理由」を聞いて「どちらが悪いか」
 を分析することは必要でしょうか?中立や分析は、当事者にとって何の役に立つのでしょうか?
 加害者は、当事者の行為を「落ち度」と主張して、暴力を正当化することがほとんどです。
 「暴力をふるう男性の特徴」にも書きましたが、家庭の外では良い人だったり、社会的信用の高い人
 が加害者という場合も多く、両者から話を聞く場合には、あなたは加害者のほうに好感を持つ可能性も
 あることを心にとめておいてください。
 中立であろうとすれば、加害者の言い分や外面に惑わされ、結果的に騙される場合も多いと
 思います。

・当事者の気持ちを尊重しながら共に歩む
 「当事者を助けてあげたい」という気持ちを抱いて下さること自体には感謝します。
 でも、当事者の気持ちを無視したサポートにならないように気をつけてください。
 あなたが当事者に代わって全てを行うことは、依存を生み出し、逆に当事者の持つ力を
 奪う場合もあります。
 (※ただし、危険な状況で緊急度が高い場合には、介入も必要です)
 当事者の気持ちは複雑です。無力感でいっぱいだったり、気持ちが揺れることもあります。
 「助けてあげたい」という気持ちが強ければ強いほど、そんな当事者に対して時には
 苛立ちをおぼえることもあるかもしれません。でもそれは。
 「こんなに私が心配してあげているのに」というおごりになっていませんか?
 当事者が行動に移せないことを責めたり、安易に「頑張れ」と言わないでください。
 当事者の気持ちを尊重し、見守りながら、共に歩むサポーター(伴走者)でいてください。
 
・全てを抱え込まない
 あなたが、友人・家族・隣人の立場であれば、当事者に対して「できること」と「できないこと」
 があるのは当然です。「自分に何ができるか(できないか)」を見極めることも必要です。
 情報を提供したり、必要な関連機関に繋ぐこともサポートの一つです。あなた一人で全ての
 ことを抱え込むには、DVはあまりにも重過ぎる問題なのだから。
  また、あなた自身が抱えている問題(DVとは限らない)と、当事者の問題に重なる部分や
 共通する部分がある場合には、あなたが混乱してしまったり苦しくなることがあります。
 そういう場合は、無理をせずに、できる範囲でサポートしてください。

・当事者の安全を確保する
 可能であれば、危険な場合の「安全プラン」を当事者とともに考えてあげてください。
 サポートが得られる人や場所を考える・行動の選択肢を提供する、今何をする必要があるか
 行動の優先順位を考え、そのためにあなたは何ができるかを伝えるなど。
 あなた自身が身体を張って暴力を防いだり、加害者に介入することは危険です。あなた個人
 に「当事者の身を守れ」と言っているのではありません。
 婦人相談所などの一時保護施設や警察を活用することも考えてください。

・共感と同情の違い
 「助けてあげたい」「何とかしてあげたい」という想いが、同情や哀れみにならないように
 気をつけてください。同情や哀れみは、上の立場から見下ろされているように感じます。
 当事者が必要としているのは「共感(empathy=エンパシー)」であって、
 「同情(sympathy=シンパシー)」ではありません。

※いろいろと書き並べましたが、これらの全てを行えというつもりはありません。
 まずは、「聴くこと」を心がけてくだされば充分です。
 (他の内容は、頭の隅にとめておいてもらえば幸いです)
 また、単に隣人として、DVではないか?と気付いた場合や、当事者自身が話そうとはしない段階
 であれば、「どうしたら良いか?」「どこまで関わって良いのか?」と迷うこともあるかもしれません。
 その場合は、機会を見つけて「気になっている・心配している」ということを伝え、「自分に何か
 できることがあればいつでも声をかけてください」と伝えるのも一方法かと思います。

 当事者の話を聞いていると、「決断力がないな」「依存的だな」「感情的だな」「混乱しててきちんと
 した話ができないな」などと感じることがあるかもしれません。そして、本人の性格に問題があるから
 暴力を振るわれても当然ではないかと感じることがあるかもしれません。
 でもそれは、暴力を受けた結果であり、暴力の中で生き延びるためにそういう精神状態・行動を
 とらざるを得ないだけです。
 目の前にいる当事者は、自分では問題を解決できない弱い人とあなたの目に映ることがあるかも
 しれませんが、当事者の本来持つ力と可能性を信じてください。あなたが、「当事者の気持ちを尊重
 すること」「当事者が解決していく力を持っているんだと信じること」が、無力感に陥っている当事者に
 とって大きな力になります。

 身近に当事者がいる・自分の友人がDV被害を受けている、その事実を知っただけで戸惑いも
 大きいかもしれません。問題の大きさに押しつぶされそうになるかもしれません。自分に何が
 できるのかと思い悩むかもしれません。でも。
 あなたが「当事者の力になりたいと思っていること」「当事者の気持ちを受け止めてくれていること」
 を伝えてくださるだけで充分なのではないでしょうか?あなたの力で全てを解決しようとするのでは
 なく、次に繋がるような橋渡しや心からの応援ができれば良いのではないでしょうか?
 「今あなたにできること」は何なのかを、このページを読んで考えて頂ければ幸いです。

              
参考文献 森田ゆり:「ドメスティック・バイオレンス〜愛が暴力に変わるとき〜」,小学館,2001


【周囲の方々へのメッセージ】

【当事者のご両親へ】
・「子どものために我慢しなさい」「お前にも悪いところがあるんだから」etc.
 ・・・「暴力をふるうこと」自体が犯罪なのです。加害者が「(当事者が)○○したから〜」
 と言うのは、単なる言い訳に過ぎません。 DV家庭で育つことは、子どもにとって「児童虐待」を
 受け続けるのと同じ影響があると言われています。 「両親が揃っている=理想的な家庭」と
 いう考えは、あなたが(知らず知らずのうちに)刷り込まれてきた価値観に過ぎません。
 当事者は、周囲の人から「あなたも悪いのでは?」と言われ続けてきています。あなたの娘さんは、
 「子どものために」と今まで十分に我慢してきました。自分に悪い点があるのなら直そうと努力も
 してきました。ご両親に余計な心配をかけたくないと思ってきました。
 どうか、「よく我慢してきたね。頑張ってきたね。辛かっただろう?お前は悪くないんだよ」
 と言って抱きしめてあげてください。
 ご両親が1番の理解者・応援者になってくれたらうれしいなと思います。

・「実家に戻って来るなんて世間体が悪い」「肩身が狭い」「恥ずかしい」etc.
 ・・・そう思うお気持ちもわからないでもありません。
 でも自分たちの世間体や見栄のために、娘さんを犠牲(=いけにえ)にするのでしょうか?
 そこまでして守りたい世間体や見栄って、何なのでしょう?
 別居にしろ離婚にしろ、危険な環境を脱出すること自体、大切なことです。
 近所や親戚の人がとやかく言うようなら「DVというのがあって、法律もある犯罪行為
 なんですよ」と言ってやりましょう。ただし、言ってもわかろうともしない場合は、それ以上は
 無駄な労力です。周りがどう思おうと、あなた自身が「恥じる事は何もない」と思えれば良いのです。

・「もっとしっかりしなさい」「子どものためにもあなたが頑張らないと」etc.
 ・・・当事者は多くの場合、無力感や自責感を抱えています。励ますつもりの言葉でも
 逆に当事者を傷つける場合があります。 娘さんに今必要なのは「安易な励ましの言葉」ではなく、
 「安心して自分らしく過ごせる居場所」です。人が生きるには「身体」と「心」に栄養・休養が必要です。
 苛立ちを抱くこともあるかもしれませんが、どうか見守ってあげてください。何があっても自分たちは
 味方だと伝えてあげてください。

【加害者のご両親へ】
 息子さんを信じたい・かばいたい気持ちは親として当然かもしれません。
 でも、息子さんの「非」は非として認めてください。本来なら、傷害罪で逮捕され留置場に入れられるのが
 当然の犯罪です。自分の犯した罪の重さときちんと向き合わないと、再犯を繰り返すだけです。
 当事者には心から詫びてください。
 そして、息子さんだけでなく、ご両親も、自分たち夫婦の在り方や子育てを見つめ直す機会なの
 かもしれません。
 しつけと称した「体罰」を容認していませんでしたか?
 相手の立場や気持ちを思い遣る心をはぐくんできましたか?
 「男は泣き言を言うもんじゃない」などと、感情を言葉にして伝える力を奪っていませんでしたか?
 「男らしさ=強さ(支配)」「男が上で女は下」と気付かぬうちに刷り込んでいませんでしたか?
 あるいは、ご両親夫婦自体が、(気付いていないだけで)DV家庭を築いてしまっているのかもしれませんが。


【過去にDV被害を受けた女性と交際している方へ】
 彼女の心の傷を癒すには時間がかかります。彼女が恋愛自体に臆病になったり、怯えを抱くのは
 当然のことなのです。「被害者意識が強過ぎる」のではなく、それだけ辛い想いをしたということです。
 「自分はDVを行うような男性じゃない」という思いが強過ぎると、逆に「何で僕を信頼してくれない
 んだ」と思うこともあるかもしれません。
 でもそれは、あなたを否定しているわけではありません。
 注意すべき点としては、たとえ喧嘩になっても(暴力をふるわないのは当然として)「大声で
 怒鳴らないこと」、「(安易に)頑張れと言わないこと」でしょうか。 彼女は、期待どおりにできない
 自分を責めてしまいます。 今の、「在りのままの彼女」を認めて受け止めてあげてください。
 あなたの温かさで包んであげてください。

【最後に】
 事件などでDVと報道されることはまだまだ少ない現状です。児童虐待の背後に
 DVが潜むと思われるものもあります。
 当事者が不幸にして亡くなった場合、新聞記事には「加害者の言い分」だけが載ります。
 その言い分は、暴力をふるった口実に過ぎません。
 メディア・リテラシーという言葉があります。報道の裏にある真実を見ようとする眼を
 持ってください。
 そして、納得のいかない報道には「DVと報道してください」などとメールを送りましょう。
 私たち、一人一人の声を届けるために。



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